甲児くんとカイザーさんの365日
カイザーさんが食後のデザートに買ってくれていたたい焼きを食べながら、甲児くんは今も記憶に残ってる、何年か前のやり取りを思い出していた
二人がまだ付き合い始めてすぐの頃、戦闘訓練の休憩時間にカイザーさんがどんよりした雰囲気を纏って「あのね…変なこと、訊いてもいい?」と言ってきた
テンションがた落ちカイザーさんの存在を既に知っていた甲児くんだけど、そういう時だって前触れもなくわけのわからんことを言い出すってのに、あえて前置きをするってことはよほど変なことを訊いてくるつもりだ…!と瞬時に悟り、カイザーさんにバレないようこっそり深呼吸してから、どんとこい!と胸を叩いた
カイザーさんは落ち着きなくもぞもぞしながら「わたしが甲児くんを好きな気持ちって、ほんとにわたしのものだと思う?それとも…誰かに作られたものだと思う?」と質問してきた
固めた覚悟の斜め上を平気で飛び越してきた質問に、甲児くんはちょっとの間フリーズした後、なんでこいつはそう次から次へと不安材料を探してくるかな~…と頭を抱えそうになって、でも人に作られたロボットのカイザーにとっては、深刻な問題なのかもしれない…と思い直して、真剣に考えることにした
カイザーさんは「誰か」とぼかしたけど、そんなことができるのは製作者のおじいちゃん以外には他にいなくて、おじいちゃんの人柄をよく知ってる甲児くんからすれば「俺のおじいちゃんはそんな人の気持ちを弄ぶような真似は絶対にしない!」で片付くけども、そうじゃないカイザーさんは論理的な説明じゃないと納得しないだろう…
まず前提として、これだけは伝えないと…と「カイザーの気持ちはカイザー自身のものだって、俺は思ってる」と力強く言い切るも、「どうしてそう思うの?」「…勘」「…」となり、やっぱり納得してもらえなかった
一つ咳払いをして、仮に、と続ける
「仮に、そういうプログラムが組まれていたとして、何のためのプログラムだ?」と聞き返すと、カイザーさんはちょっと考えて「えっと…わたしがパイロットの人と仲良くなるため…かな」と答える
「仲良くできるかどうかはわからないぜ。その人に好かれてるからって、その人を好きになるとは限らないだろ」「そう…かも」「じゃあ、どうして一方通行の好きって気持ちが必要なんだろうな?」「…その人に…逆らわない、ため?」「まあ…そうだろうな。好きって気持ちを利用して、言うことを聞かせるための胸クソ悪いプログラムってわけだ」「うん…」
そこで甲児くんは席を立つと、カロリー補給用に置かれていたおまんじゅうを二つ、持ってきた
「こっちはつぶあん、こっちはこしあんだ」「う、うん」「今から、せーので好きな方を指差すぞ」「え?」「いいから、せーの」
甲児くんが指差したのはつぶあんで、カイザーさんが指差したのはこしあんだった
「俺、つぶあん派なんだよな」「そ、そうなんだ…」「いいか、カイザー、俺はつぶあんが好きだ。お前にも、好きになってほしい」「そう、なの…?」「そうだ」
カイザーさんが何か考え込んでいるのを確認してから、甲児くんはつぶあんのおまんじゅうを一つ追加して、合計三つのおまんじゅうを机に並べた
「もう一回、さっきみたいに選ぶけど…カイザー、難しく考えるなよ。お前が今、食べたいと思うものを選ぶんだ。嘘はついちゃいけない、簡単に、素直に考えるんだぞ」「…うん」「せーの」
そうして甲児くんはつぶあんを、カイザーさんは…こしあんを選んだ
「ま、そういうことだ」と甲児くんはニカッと笑って「好きって気持ちはさ、誰にも捻じ曲げられない、自由なんだよ!」とカイザーさんの手を握ってくれた
カイザーさんも脱力したようにふにゃふにゃ笑って、おまんじゅうをパクっと食べた
…実際のところは、おじいちゃんを捕まえて聞いてみないことにはわからないけど、あの時カイザーさんは確かに自分の意思で、好きなものを選べた
あの場につぶあんのおまんじゅうは二つあったわけで、甲児くんにつぶあんが当たるようにと気を利かせたわけでもないし、メインパイロットである甲児くんの命令にも近い言葉でプログラムが書き換えられたわけでもなかった
だから、やっぱりカイザーの心はカイザーだけのものなんだと改めて思いながら、たい焼きをしっぽから食べるカイザーさんの隣で、甲児くんは頭から食べ始めるのだった
なんかすんげえ長くなっちゃった!
あねいもEEをコンプ?したから、その感想と併せようと思っていたけど…もうこれ一つの記事にしちゃってもええやろ
自我を持つロボットって創作界隈にはたくさんいるけど、どこからどこまでが自分の気持ちで、どこからどこまでがプログラムなのかって、どうやって判別してるんだろうか…
ということをもにょもにょ考えてたら、なぜかつぶあんとこしあんの話になった
結局、自分たちが信じたことが真実になるって、あんまり人間の認識と変わらないのかもねぇ
ロボヒロインよ、永遠なれ…