甲児くんとカイザーさんの365日
6/26『露天風呂』
どうもお家のボイラーの調子が悪いらしい…ということに、晩ごはんの後に気付いた甲児くんとカイザーさん
二人とも機械には強いので、自力で直せないこともないかもしれないけど、時間が時間だし、明日とりあえずカイザーさんが見てみて、直せそうになかったら業者さんを呼ぶことにし、今夜は久々に銭湯へ行くことに
といっても、お風呂に入る必要があるのは甲児くんだけ
カイザーさんは夏場だからって汗もかかないし、女湯に入るのもいろいろと手続しなきゃいかんのでめんどくさいし…
でも、お留守番してるのも寂しいから、銭湯までついていって入り口で別れる
カイザーさんが外で待ってると思うと烏の行水で済ませたい気もするけど、お金も払ってる上に、当人から「せっかくのおっきなお風呂だから、ゆっくりしてきてね~」と言われているしで、お言葉に甘えさせてもらう甲児くん
とはいえ、湯船に浸かってても(カイザー何してるかな…)ばかり頭に浮かんでくる
ふと思いついて、露天風呂へ
他に誰も利用客がいなかったので、これ幸いと小さな声で、最近カイザーさんがハマっているという昭和歌謡の一節を口ずさむ
…外のベンチで甲児くんが出てくるのを待ってるカイザーさんだけど、針が落ちた音も聞き逃さない精度の聴覚センサーが、甲児くんの歌声を拾った
甲児くんの歌に合わせて、カイザーさんも近所迷惑にならないよう、小さくハミングする
すると、まるで温泉に浸かってるような、ポカポカした気分になれた
甲児くんにはカイザーさんの歌は聞こえなかったけど、きっと同じように歌ってるんだろう、と思って、そのまま一曲歌い切った
富豪ネタもいいけど、神田川する甲児くんとカイザーさんもいいよね…と、不意に思ったり
この世界線の甲児くんはスーパー科学者揃いの良家に生まれた坊ちゃんで、本人にも科学者としての秘められた才能があったけど、親が勝手に決めた許嫁よりも惚れた女と添い遂げたいってんで、一介のメイドロボに過ぎないカイザーさんと駆け落ちしたんだ
そうして実家が差し向けてくる追っ手を躱しながら、狭い木造アパートでカイザーさんと二人暮らしするんだ
甲児くん名義の預金も相当な額があったけど、ATMからうっかりお金を引き出そうものなら一瞬で居場所が特定されてしまうから手を付けられず、またどこに監視の目が光ってるかもわからないから定職にもつけず日雇いのバイトを転々とする日々で、かつての栄華は影も形もないけれど、安売りのもやしとカイザーさんが台所で育ててるカイワレ大根でかさ増しさせた食事でも、二人はとっても幸せなんだ
たまの贅沢として、月に一回、近所の銭湯に行くんだ
そこで甲児くんと一本をシェアして飲むフルーツ牛乳が、カイザーさんの楽しみの一つなんだ
でも、追手はしつこく付きまとってきて、ついにはアパートも引き払わなきゃいけなくなって、ネカフェに避難するようになるけど、そんな暮らしでは所持金もすぐに底をつきそうになるんだ
甲児くんは自分はデスクワーク派だとなんとなく思っていたものの、意外と肉体労働にも適性があることに自分でも驚きつつ、夜間工事の警備やビルの清掃なんかに精を出すけれど、世界一の科学者になりたいっていう小さい頃の夢も忘れられないんだ
カイザーさんは目立つから移動するだけでもリスキーで、だから外で稼ぐなんてとてもできなくて、朝から晩まで寝る間も惜しんで働く甲児くんのお荷物になるしかできない自分が悔しくて、せめて別々に逃げようと提案するけど、甲児くんに「お前と離れ離れになるくらいなら、死んだ方がマシだ」と抱き締められて、泣くしかできない自分が本当に嫌になるのに、やっぱり何もできないんだ
こうなったら行けるところまで行こう、となけなしの全財産を握り締め、北へ向かって愛の逃避行を続ける二人だけど、とうとう追い詰められて逃げ場を失くしてしまうんだ…
とまあ、シリアス調になってしまったけど、うちの甲児くんとカイザーさんには純愛ルートのハッピーエンドしか最初から用意されてないんで、実家に連れ帰られた二人を待っていたのは両親からの「パパとママが悪かったから、家出なんてやめて帰っておいで」「二人が結婚するのを認めます、だから孫はこの手に抱かせてちょうだいね」という拍子抜けするようなセリフだし、だから追手だと思ってたのも迎えの者だったわけだし、それというのも長らく海外にいたおじいちゃんが帰国するなり孫が駆け落ちしたことを知って、子どもの意思を尊重しない親がどこにいるのか、と両親を説得してくれたことがきっかけで、そもそもパパだってママと恋愛結婚したことを指摘されると考えを改めざるを得なくなって、こうして甲児くんとカイザーさんは晴れて親公認の下、夫婦になれたんだよね
これには大好きなお兄ちゃんと世話をしてくれていたメイドのカイザーさんの身を案じ続けていた弟のシローくんも、隠れてこっそり黒服たちの妨害をしていた義兄の鉄也さんも、ニッコリだね
甲児くんは将来的に世界に名を馳せる科学者になるし、カイザーさんはメイド業を続けつつ元許嫁のお嬢さんとも仲良くなれて友達の輪が広がるし、夫婦としては子宝にも恵まれて絵に描いたような幸せな家庭を築くんだよね
めでたしめでたし、だね
攻略完了したエロゲーの感想を書こうと思っていたのに、最終的に神田川から遠く離れたところに不時着したネタで埋まってしまったわ
それもこれも、甲児くんとカイザーさんが創作意欲を掻き立てるカップルだからいけない…!
ほんともう、なんでこんなにかわいいんだ、この二人は…!