お嬢さま至上主義

とあるポンコツギャルゲーマーの日常です

恋した月日が煌いて見える きっとあなたの笑顔のせいね

甲児くんとカイザーさんの365日

7/10『強壮剤』

 

家族が増えると思うと、今まで以上に頑張って働かないと…と、張り切ってる甲児くん

今日もいつもより遅めに帰ってきては、疲れた~…と床でゴロゴロする

と、ごはんの用意をしていたカイザーさんが配膳の手を止めて、よいしょ、と持ち上げた甲児くんの頭をお膝に乗せると、よしよしなでなでしてくれた

カイザーさんの優しさをいっぱい摂取して、あぁ生き返る…とうっとりしながらカイザーさんを見上げると、何やら心配事がありそうな浮かない顔をしている

どうかしたのかと尋ねたところ、カイザーさんが一本の瓶を取り出してきた

「お兄ちゃんがね、今の甲児くんに一番必要なものだから、って…」そう言うカイザーさんの手から受け取って、ラベルをよく読んでみると、いわゆるまむしドリンク系統のもので…

せっせと子作りせぇや~、との幻聴が、どこからか聞こえてくる気がした…

「甲児くん大丈夫?疲れてるの?」と心配してくれるカイザーさんに「このくらい余裕だぜ」と返しつつ、こんなものなくても夜の営みに支障はないものの、ちょっと気にならないこともないので、とりあえず冷蔵庫に入れておいた

 

 

 

神田川から派生した、ボンボン甲児くん×メイドカイザーさんのお話

 

 

 

華族の家柄に生まれた甲児くんと、代々兜家に仕えている女中一家に生まれたカイザーさん

超がつくほどのお坊ちゃまな甲児くんは何不自由ない生活を送っていたけれど、カイザーさんのお家は早くにお父さん(甲児くんのおじいちゃん直属の執事だった)を亡くしてからは親一人子一人で頑張っていたけど、その後すぐにお母さん(現役のメイドさんだった)も体調を崩して入院を余儀なくされてしまう

難しい病気で莫大な治療費もかかり、何よりまだまだ幼いカイザーさんが一人残されてしまったことを不憫に思った甲児くんパパとおじいちゃんは、こっそり金銭的な援助をしつつ、カイザーさんを甲児くんのお世話係という名目で引き取ることにした

(甲児くんちは華族でなくなったとはいえ政財界にアホほど強い影響力を持ち続けている家柄で、あまり表立って特定の人物を贔屓するわけにもいかず、たとえ昔から世話をしてきているカイザーさん一家も例外ではないため、いろいろ裏から手を回す必要があった)

 

ちんまいちんまいカイザーさんは、あんまり事の重大さについてわかっておらず、これまでにも何度か遊んでもらったことのある甲児くんのことを「おにーちゃん」と呼んで、慕うようになる

一方、甲児くんもバカ広い家の中で唯一自分より年下(まだ弟は生まれていない)のカイザーさんのことを憎からず思ってはいたけど、微妙に意識している相手と四六時中顔を突き合わせているというのは思ったより気恥ずかしくて、ついつい意地悪をしてしまう

どこに行くにも後ろをぽてぽてついてくるカイザーさんに、いくら「ついてくんな!あっち行け!」とつっけんどんな態度を取ろうとも、カイザーさんは「おにーちゃん待ってよぅ~」と、ぽてぽて追いかけてくるのをやめない

ちんまいちんまい体に合うよう作られた特注品のメイド服を着たカイザーさんは、それはそれはかわいらしかったのだけど、それを認めてしまったら何だか後には引けなくなる気がして、甲児くんはますます頑なになってしまう

ある日、ここまでは追いかけてこられないだろうと、庭でも一番大きな木に登った甲児くん

案の定、それまで木登りなんてしたことなかったカイザーさんは、困ったように木の下をうろうろしながら「おにーちゃん危ないよぅ、降りてきてよぅ」と泣きそうな声で呼びかけてくる

聞こえないフリしていると、なんとカイザーさんが木の幹をよじ登り始めたではないか

そのうち根負けしてどこかに行くだろうと思っていた甲児くんは、当てが外れたことに驚きつつ、ちょっと上っては落ちて、またちょっと上っては落ちて、と一進一退を繰り返しているカイザーさんに「危ないからやめろ!」と声をかけるも、「おにーちゃんのところに行くもん」と諦めない

だんだんコツを掴んできたらしいカイザーさん、さっきまでより高いところまで上ってこれたけど、次の瞬間には手と足を滑らせて落ちてしまった

どすん、と大きな音がして、びっくりした甲児くんは慌てて木から降りると、地面に引っ繰り返ってるカイザーさんを抱き起こす

「だ、大丈夫か!?怪我してないか!?」とあちこち触って確かめる甲児くんに、カイザーさんは「へーきだよぉ、わたしがんじょうなんだぁ。おにーちゃんやさしいね」と、ふにゃふにゃ笑う

どこが優しいんだよ、今までいっぱいイジワルしたじゃねぇか、と不意に涙が込み上げてきて、甲児くんはカイザーさんを抱き締めるとポロポロ泣いた

次の日、今までにもらったプレゼントを溜め込んでいる部屋から、男の俺はこんなのもらっても嬉しくない、と放置したままになっていたクマのぬいぐるみを掘り出すと、カイザーさんに「女はこういうの好きなんだろ」と譲った

余談だが、カイザーさんはこのぬいぐるみを大層大事にしており、後年に甲児くんと駆け落ちするとなった時にも、数少ない私物として屋敷から持ち出している

それからは外遊びだけじゃなく、カイザーさんが喜ぶようなおままごとや塗り絵、絵本の読み聞かせなんかをやってる甲児くんが度々見かけられるようになり、たくさんのお手伝いさんたちをあらあらうふふさせた

 

時が流れて、甲児くんが中学生に上がるか上がらないかのタイミングで、闘病生活を続けていたカイザーさんのお母さんが亡くなった

その頃にはさすがに現状を正しく把握していたカイザーさんは、今後の身の振り方を考えなければならなかったけど、そんな折、甲児くんパパとママから「うちの養子にならないか?」と相談を持ち掛けられる

甲児くんとカイザーさんがあんまり仲がいいものだから、いっそ本当の兄妹にしてやる方が二人のためになるかもしれないと思った親バカ二人は、一族の反対を押し切る形でカイザーさんを引き取ろうとしたのだった

先にその話を聞いていた甲児くんは、冗談じゃない、兄妹なんかにされちまったらカイザーと結婚できないじゃねぇか!と焦るも、あんまり強固に反対して理由を聞かれた時に、たとえ親でも本音を洗い浚い言うのは恥ずかしくてたまらなく、もにょもにょするしかできない

カイザーさんもカイザーさんで、甲児くんが義理のお兄ちゃんになってしまったら恋人になれない、と大慌て

お気持ちは大変ありがたいのですけど、わたしの父と母は亡くなった二人の他にはいませんので…と断られてしまうと、甲児くんパパもママも何も言えない

その代わり、ここでメイドとして働かせてもらいたい、とお願いするカイザーさんの熱意に感動したパパママは、カイザーさんを正式に住み込みのメイドさんとして雇うことにした

甲児くんもこの結末にはホッと胸を撫で下ろした…のだけど、ちゃんとしたメイドさんになったカイザーさんは、甲児くんのことを「お兄ちゃん」ではなく「若様」と呼ぶようになって敬語で話すようになり、だいぶ寂しい思いをした

カイザーさんが「お兄ちゃん」と呼んでくれたのは、お母さんのお葬式で、泣きながら縋りついてきた時が最後だった

 

甲児くんの専任ではなくなったカイザーさんだけど甲児くんのことは引き続き気にかけており、甲児くんもカイザーさんには積極的に絡んでいくので、あらあらうふふ度は増していった

カイザーさんが庭仕事をしていれば甲児くんはその後を引っ付いて回るし、甲児くんのおやつの準備は大体いつもカイザーさんがしている

小さい頃の二人を知っているベテランのメイドさんたちは大きくなっても仲の良い二人を微笑ましく見守っているけど、年若いメイドさんの中には、次期当主の座に就くことが決まっている甲児くんに色目を使ってる(と思われている)カイザーさんのことが気に入らない娘も少なくなかった

とはいえ「若様のお気に入り」を表立っていじめるような度胸がある娘も、恥知らずな娘もいなかったので、それなりに平和ではあったらしい

 

数年後、甲児くんの高校卒業に合わせて、縁談が持ち上がった

相手のお嬢さんも申し分ない家柄のご息女で、お前とは同い年で、趣味は乗馬とチェスで云々かんぬんとパパママに説明されるも、まったく頭に入ってこない甲児くん

俺には好きな人がいる、ずっと昔に心に決めた人がいる、と何度話しても相手にしてくれず、あれよあれよという間にセッティングされていくお見合いを前に、甲児くんはカイザーさんと駆け落ちすることに決めたのだった――

 

すったもんだの後、カイザーさんと二人でご令嬢に詫びを入れに行くと、あっさりしたもので「他の女性に現を抜かしているような男など、こちらから願い下げですわ」と豪快に笑われ、てっきり恥をかかされたと恨まれているかと思いきや、身分違いの恋に愛の逃避行…なんてロマンチックなのかしら!と大層気に入られ、なんだかんだで家族ぐるみのお付き合いをするまでになり、結婚式にも参加してくれただけでなく、カイザーさんとも仲良くしてくれることになった

次期当主の妻でありながら、メイドさんの仕事を好きで続けているところも、彼女からすれば好感度が高いらしい

今ではカイザーさんから、お裁縫やお料理をちょっとずつ習っているとか

代わりにカイザーさんも、彼女から上流階級の嗜みやお作法なんかを教えてもらっているそうで、二人の友情は末永く続きそうだった