甲児くんとカイザーさんの365日
10/24『焼き芋』
今日の夕飯は何作ろうかな…と考えながら洗濯物を片付けていると、空気の入れ替えのために開けていた窓からお馴染みの歌が聞こえてきて、ハッとなったカイザーさんは慌ててお財布を手にすると玄関から走り出て行く
ちょうどアパートの前を通りかかった焼き芋屋さんの軽トラから降りてきたのは、いつものおじさん
寡黙な職人気質のおじさんとは特に会話をする仲ってわけじゃないけど、何度も買い物するうちに、カイザーさんは何となく親しみを覚えていた
でも、向こうはわたしのことなんて気にしたことないだろうなぁ…と思いながら、「一つください」と言うと、なぜかじっとこっちを見たおじさんが「…二つじゃなくて?」と聞いてきたので、いつも甲児くんの分も合わせて買うの覚えててくれたんだ…!と、喜ぶカイザーさん
一方通行の関係じゃなかったことがなんだか嬉しくて、ついつい赤ちゃんができたこと、将来のためにつもり貯金をしていることを喋ってしまってから、余計なこと言ったかも…と我に返って口元を隠すカイザーさんだったけど、おじさんはちょっと笑って「そっか、おめでとう」と、大きな焼き芋を選んで二つ袋に入れてくれた
カイザーさんが「あの、一つでいいです」と言うのを遮って、「今日だけ特別」と、一つ分の代金と引き換えに袋を渡してくる
しばらく軽い押し問答みたいになったものの、結局、折れたカイザーさんは複雑な気持ちで焼き芋を受け取ることに
…夕食後、温め直したホカホカの焼き芋を甲児くんと二人で食べながら昼間の出来事を話して、「わたしが言わなくてもいいこと言っちゃったから、おじさんに悪いことしちゃった…」としょんぼりしていると、「せっかく祝ってもらったんだから、そういう時はありがたく好意を受け取りゃいいんだよ」と、甲児くんが笑って教えてくれたので、カイザーさんは目から鱗が落ちた
後日、甲児くんはカイザーさんと連れ立っておじさんに挨拶に行き、「先日は妻に良くしてくれて、ありがとうございました」「…旦那さん?」「そうです、旦那です」「おめでとう」「ありがとうございます。早く生まれてこないかな、って、最近はそればっか考えちゃいますよ」などなど、生来のコミュ強を発揮してカイザーさんから尊敬の眼差しを浴び、人数分買った焼き芋を持って研究所まで遊びに行って、Zやシローくんらと焼き芋パーティーした
昨日に引き続き、カイザーさん人外パロディ第五弾の陰陽師甲児くん×式神カイザーさん妄想をぶちまけるよ!
何じゃそりゃ、な人は回れ右を推奨するよ!
・カイザーさん
甲児くんとの契約により、幽世からやってきた新たなる魔神
基礎スペックだけでもZの二十倍のパワーがあるなど頼りになる存在だけども、媒介なしに呼び出したにもかかわらず負荷なしで使役でき、また、媒介の護符の破損により現世での実態を保てなくなったZを護符が修復されるまでの間、一時的に現世に留めておくために力を貸したりと、通常の式神ができないことを平然とやってのける異質な存在でもある
無口…というか、どういうわけだか喋れないようだけど、自己意思は明確に持っているらしく、首を縦に振ったり横に振ったりしながら周囲とはコミュニケーションを取っている
契約者である甲児くんは、黙っていてもカイザーさんの考えていることが手に取るようにわかるので、特に不便は感じていない
甲児くんの作るおはぎが大好きで、放っておくと全部食べてしまうので注意が必要
体の大きさは伸縮自在で、普段は仔猫ぐらいのサイズに縮んでいる
最大では28メートルまで伸びる
「…あー!またカイザーはんがワイが取っといたおはぎまで食べとる!」
「げ、またかよ~。ダメじゃないか、カイザー。お前の分はさっき食べてただろ」
(ふるふる、ふるふる)
「…いや、食べたやろ。口にあんこついとるで」
(ごしごし、ごしごし)
「そっちじゃなくて、反対側だって。ああもう、拭いてやるよ。あと、おはぎは作り直してやるから。…カイザーの分も作るから、Zのまで食うなよ」
(こくこく、こくこく)
「ほんまにわかっとんか…」
「何でカイザーはんは喋れんのやろなぁ」
(???)
「俺らの言葉はわかってるみたいなのにな」
(こくこく)
「カイザーはんぐらいの霊格があれば、人語はペラペラのはずなんやけどなぁ…」
「そういうのって式神によって違うのか?」
「そらな。アメーバみたいなんや四足歩行の連中は喋れんのがデフォやし、人型しとっても喋れんような奴もたまにおるで。神獣クラスになったら、逆に四つ足でも喋ったりな」
「へぇ~」
「…甲児くん、この辺は陰陽師やったら普通に知っとる常識やで。また座学サボっとったんかいな…」
「…」
(なでなで)
「甲児くんはカイザーはんの考えとること、わかるんやろ?」
「まあな。やっぱり契約者だからかな」
「ほな、カイザーはんが今何考えとるか当ててみてや」
「いいぜ。…そうだなぁ…カイザーは今…」
(どきどき)
「…おはぎが食べたいって思ってる!」
(ぱちぱち)
「ほらな、正解だってさ!」
「…それはワイでも当てられる気がする」
「なあ、甲児くん」
「んー?」
「…ええもんやろ、自分だけの式神っちゅーんも」
「…まあ、な」
(ごろごろ)
「カイザーはんも嬉しそうやん。膝に乗って撫でられて、ほんでゴロゴロ言うてからに…ネコみたいなもんやな、しかし」
「…」
「おーおー、にやついてからに…あないに式神はいらん、Zがおったらほれでいい、ちゅーて言よったお人と同一人物とは思えんわ」
「う、うるせぇ…」
「照れんでもええやろ~」
・昔話
昔々、幽世に一人の美しい姫さまがいました
新しい魂は現世でしか生まれないという自然の摂理に反し、幽世で産声を上げた姫さまは、幽世の住人によって創り出された存在でした
姫さまを創った人たちは幽世の中でも最上層に住み、たくさん苦労した現世にはもう戻りたくない…そのため、強大な力を持たせて創り上げた姫さまに現世を破壊してもらおうと考えたのです
現世がなくなれば魂の循環システムも停止し、自分たちは一生ここから離れずに済む、という企みです
姫さまは己に課せられた定めなど知る由もなく、力が最高潮に満ちるその時まで、蝶よ花よと大事に育てられてきました
幽世での生活は、姫さまにとっては退屈そのものでした
いつしか世界が二つあると知った姫さまは、現世に興味を抱くようになりました
しかし、お世話係たちは一様に「現世は穢れに満ちた場所です、現世を覗いてはいけませんよ」と言って、姫さまの自由を制限しました
駄目だと言われたら、俄然やりたくなるのが人の性というもの…姫さまはある日、お世話係の目を盗んで現世の様子が見られる水鏡のある場所までやってきました
ドキドキしながら覗き見る現世は、姫さまを一瞬で虜にするだけの刺激と活力に満ちた世界でした
確かにお世話係たちが言う通り、現世には幽世にない病気や死の概念が蔓延しており、生者同士で争い合うばかりでなく、幽世から迷い込んだ鬼による被害も多発しています
でも、そうして日々を精一杯に生きている彼らからは、ただ漫然と時が流れるに任せている怠惰な幽世の人々と違って、活き活きとしたエネルギーが感じられました
それからというもの、姫さまは度々、禁じられた水鏡の間に入り込んでは、現世の様子を見るようになりました
ある時、姫さまは現世の一人の男性に心を奪われました
陰陽寮の中でも最高責任者である陰陽頭であり、また高名な陰陽師の家系の現当主である男性は、率先して鬼から人々を守るべく戦う勇敢さと、市井に生きる命を分け隔てなく愛する優しい心とを併せ持っていました
姫さまは初めての恋をしたのです
来る日も来る日も、考えるのは当主さまのことばかり…
寝ても覚めても当主さまのことを考えるあまり、姫さまは自身の夢の世界に当主さまを連れ込んでしまいました
夢の世界は現世と幽世のどちらにも属さない世界ですが、性質としては肉体よりも魂に重きを置く幽世に近いものがあり、姫さまの力の及ぶ世界なのです
慌てふためく姫さまとは違い、当主さまは現世にて何度も姫さまの自分を呼ぶ声を聞いていたことから、こんな日が来るのではないかと考えていたようで、落ち着き払ったものです
ですが、さすがの当主さまも相手が幽世の姫君であるとは思いませんでしたし、さらに姫さまは当主さまがこれまで会ったことがあるどの女性よりも可憐で愛らしかったので、当主さまも一目で恋に落ちたのでした
それからというもの、姫さまと当主さまは夢の中で何度も逢瀬を重ね、その都度、互いに強く惹かれていきました
当主さまは水鏡越しに見るよりも優しく聡明で、姫さまは生まれたばかりの赤子のように無垢で純粋なのです
やがて二人は愛し合うようになり、夫婦の契りを交わして、その結果、姫さまは当主さまの子どもを身籠りました
…しかし、幸せな日々は長くは続かず、姫さまの懐妊がお世話係たちの知るところとなったのです
あれほど現世には近付くなと言ったのに…!
よりにもよって、現世の生者との間に子を成すなど…!
お世話係たちにきつく叱られただけでなく、もうすぐ生まれてくる子どもまで取り上げられそうになって、姫さまは大層悲しみました
わたしが言いつけを守らなかったのがいけないんだ、だから子どもまで不幸になるんだ…そう考えた姫さまは、お世話係たちの言うことを聞いて幽世の下層にある牢獄への幽閉処分を大人しく受け入れましたが、子どもだけは助けたいと、夢を通じて当主さまの元へと赤子を送り届けました
もう二度と会うことはないでしょうけど、わたしはいつまでも愛するあなたと我が子の幸せを願っています…
涙ながらにそう言って消えていく姫さまを、追いかけようとしても足が地面に埋まってしまったように動かない…そんな悪夢から目覚めた当主さまの隣には、小さな小さな赤ん坊の女の子が眠っています
その日から当主さまは、その女の子を幽世の姫さまとの間に生まれた子として、大切に大切に育てることにしました
それから数年が経った、ある日のこと
当主さまの今なお衰えない強大な陰陽の力に加えて、幽世の姫君の能力を受け継ぐ娘がいれば、もっと多くの権力を手に入れることができるのではないか…そんな風に考える勢力が次第に数を増やしていき、いつしか陰陽寮に不穏な気配が満ちるようになりました
ですが、清廉潔白な当主さまがそのような帝への裏切りを許すはずがなく、都の安寧秩序を守るのが俺たちの役目であり、自ら平穏を乱すような真似をしてはならない、と厳しく部下たちを諫めます
だんだんと当主さまを疎ましく思うようになった部下たちの夢に、一人の天女が現れました
狐のような目つきをした天女は、古くから幽世に伝わるという禁断の下法を彼らに授けます
必要なのは当主さまと娘の力のみであると改めて思い直した彼らは、教えられた下法をさっそく実行に移すことにしました
信じていた部下に裏切られ、娘を人質に取られた当主さまは抵抗を諦めるしかなく、彼らの言う通り、娘の解放と引き換えにその命を差し出すことを了承するしかありませんでした
せめて最期に一度、娘の元気な顔を見せてほしい、との当主さまの願いに応えて娘は連れてこられましたが、白木の台に乗せられた娘は既に骨だけとなっていました
娘の骨で組んだ依り代に当主さまの魂を縛り付け、無理やりに式神として使役する…それが天女より授けられた下法の内容だったのです
生きたまま肉体から魂を引き剥がされる苦痛よりも、娘の死について嘆き悲しむ当主さまの叫びは、遠く離れた幽世の姫さまの元にも届きました
愛する夫と娘の身に何か起きたに違いない…そう悟った姫さまは、幽閉部屋を飛び出して現世への門へと向かい、硬く閉ざされている門を強引にこじ開けます
その時、姫さまは自分にはこれだけの力があるのだと、初めて気付きました
そうして降り立った現世にて、変わり果てた当主さまと娘の姿を目にした姫さまは、生まれて初めて人を呪い、怒り、溢れる激情に身を任せて力を解放しました
あんなに愛らしかった姫さまの見た目は見る見るうちに変化し、姫さまの内より湧き上がる憤怒をそのまま形にしたような、鬼神の姿を取るようになります
怒り狂う姫さまの変貌を目の当たりにした一人が、ぽつりと呟きました
魔神だ…と
儀式の衝撃から立ち直った当主さまの魂が見たもの、それは都を焼き尽くし、破壊しつくしてもなお暴れ回る魔神の異形でした
以前の姫さまとは似ても似つかない魔神ですが、当主さまは一目で愛する妻だと見抜き、もうこんなことはやめるようにと説得します
ほんの少しの理性を取り戻した姫さまは、壊滅した都から無数の霊魂が幽世へと吸い込まれていく光景を目の当たりにし、自身の犯した罪を知りました
ですが、それでもまだなお、五臓六腑を引き裂き、この身の全てを焼き尽くさんとする怒りの炎は、現世を完全に破壊するまでは鎮まる様子がありません
そんな姫さまに、当主さまは悲しそうに語りかけます
事の首謀者たちはもうみんな死んだ、俺と娘の仇は取ったんだ、七つまでは神のうち…娘の魂は現世の神の下へと召され、この世界に遍く溶け込んでいる、どうか俺たちの娘を二度も殺さないでくれ、と懇願する当主さまに、姫さまは項垂れて応えます
あなたの言うことはわかりました、それでもわたしはこの身に満ちる呪詛と憤激を消し去ることはできません…ですから、わたしは幽世の最下層へと己が身を封印することとします、それがわたしの負うべき罰です、と語った姫さまが幽世へ還っていこうとするので、当主さまはついていこうとしました
幽世の最下層、それがどのような場所か当主さまにはわかりませんでしたが、きっととても寂しくて悲しい場所だろうと思ったのです
共に行こうと言ってくれた当主さまの言葉は、姫さまにとってはとても嬉しいものでした
だからこそ、彼を魂の墓場に連れて行くわけにはいかない…姫さまは当主さまから自身に関する記憶と陰陽の力を全て抜き取ると、何も持たないまっさらな魂として輪廻の輪に加われるよう、幽世の上層へと送り出しました
いつしか生まれ変わったならば、今度こそ幸せに生きてほしい…そう祈りながら、姫さまは一人、奇跡的に無事だった骨だけの娘の亡骸を抱えて、魂の消える場所…幽世の最下層へと墜ちていきました
…さて、この事態の顛末に悔しい思いをしたのは、姫さまを創り出した幽世の住人です
愛を知った姫さまから愛を奪い去り、悲しみと怒りによって覚醒した姫さまに現世を破壊してもらう予定だったのですが、未然に終わっただけでなく、自分たちの手の届かないところへ姫さまが行ってしまったのですから、大損害もいいところです
せっかく天女を騙り、現世の生者を利用までしたのに…です
しかし、解き放たれた姫さまの力は、彼らの想像以上のものでした
このまま埋もれさせておくのは惜しい…どうにかして姫さまを最下層より連れ出し、自分たちのために働かせなければ…
彼らは天国のように美しい幽世の片隅で、醜い策を練り続けるのでした
その姫さまがカイザーさんで、当主さまの生まれ変わりが甲児くんで、甲児くんのピンチに反応した姫さまが無意識のうちに魂の一部を切り離して現世へと送り込んだからカイザーさんが現れて、母親と同義のカイザーさんは現世に満ちる娘の魂と自由自在に繋がれるから普通の式神にはできないこともできて、でも二度と自分は誰かに愛される資格はないと思っているからコミュニケーションの手段を持っていなくて、現代の百鬼夜行は当主さまの転生体である甲児くんの存在に気付いた幽世の住人が引き起こしたもので、再び現世を地獄絵図に変えてやろうと画策する幽世の住人と愛するカイザーさんを解放したいと考える甲児くんとの戦いの火蓋が切って落とされるわけだけども、そこまで書けんわ!