甲児くんとカイザーさんの365日
12/19『くしゃみ』
なんか鼻がむずむずするような…と思った次の瞬間には、豪快なくしゃみをぶちかました甲児くん
心配そうにティッシュ箱を差し出してくれるカイザーさんに礼を言って受け取りながら、二回目に備えるも、結局一度で終わった
「風邪じゃなさそうだね」とホッとしたカイザーさんをさらに安心させようと、「誰かが俺の噂してるのかもな」とおどけて返す
ん…??と首を傾げたカイザーさんが、「確か、くしゃみの回数によっていい噂とか、悪い噂とか、そういうのあったよね」と言うので、あったあった、と懐かしくなって調べてみた
ら、くしゃみ一回はいい噂、もしくは誰かに想われている、と出てきた
その結果に、甲児くんは(誰かって…そりゃ一人しかいねぇよなぁ、いやぁ~俺って愛されてるなぁ~)とにまにましながらカイザーさんを見つめてみたけど、当のカイザーさんはちょっとほっぺを膨らませて、何やら面白くなさそうな様子
どうしたのか尋ねてみると「…そうだよね、甲児くんかっこいいもんね、きっと研究所のみんなもかっこいいって噂してるよね」と珍しくヤキモチを焼いているようなので、愛いヤツめ~と散々かわいがった
ようやくまとまった時間が取れたので、久々に甲児くん×カイザーさんの怪文書を垂れ流すよ!
ちょっと前に365日シリーズのネタにした、イチャラブな結婚記念日を過ごす二人の一日を詳しく妄想してみたよ!
若干、元ネタとの齟齬が発生してしまったけど、寛大な心でスルーしてもらえるとありがたいよ…
それでは、お好きな方だけどうぞ…
今日は年に一度の結婚記念日
毎年あれこれと相談しては一緒に盛り上げているけど、今年はカイザーさんが内職を頑張って温泉旅行をプレゼントしてくれたので、そのお返しに、記念日当日は甲児くんがメインになって進めることに
今年のテーマは、カイザーさんをお姫さま扱いしちゃおう、というもの
本当は少女趣味のカイザーさんのために、部屋中をお花とフリフリヒラヒラのレースやリボンで飾り付けたかったけど、将来を見据えて貯蓄を始めたところに、そこそこの出費は打撃になる…何より、たぶんカイザーさんが気にしてしまう
ので、それらは必要最低限だけ用意して、後の飾りは甲児くんが手作りすることに
カイザーさんには当日まで秘密にしておきたいので、主に仕事の合間の休憩時間を利用して、デスクでせっせと図工に励む甲児くんの姿が見られた
そうしてできたのは、色とりどりの折り紙で作った輪っかを連ねた飾りと、ティッシュで作ったお花
車のトランクに隠しておいたそれらを、早起きして部屋中に飾り付けた
テーブルにはレースのクロスと、花瓶に活けた生花、そしてちょっとしたリボン飾りをセットして、準備完了
後は朝食だ
バターたっぷりオムレツと、砂糖たっぷりフレンチトースト、それから野菜サラダとオレンジジュースを用意した
お姫さまは愛する人のキスで目を覚ますのが定番…ちょっとタイミングがずれて、先にぱっちり目を開けたカイザーさんに構わずチュッとキスすると、朝のご挨拶
「いいにおい~…」とうっとりしたカイザーさんは、遅れて部屋中の飾りに気付いたらしく、「すごい…素敵…」と、これまたうっとり呟く
どうせなら部屋一面に本物の花やレースを用意したかったんだけど、と苦笑する甲児くんに、カイザーさんは首をぶんぶん振って「この飾りも、とっても綺麗だよ。甲児くんの真心が詰まってるもの」と、ティッシュのお花をそっと撫でた
「この飾り、後でもらってもいい?」と聞かれたので、どうせ捨てるつもりだったし、と頷いた甲児くんは、カイザーさんが以前にデザインが気に入った、と取っておいたクッキー缶の中に各種の飾りを丁寧に片付けているのを見て、ちょっと恐縮した
ところで今日の甲児くんは、全身シックなコーディネートでキメている
「その格好…執事さん?」と尋ねられ、正解!とウインクする
最初は「お姫さまの恋人なら王子さまだろ!」と思ったけど、それっぽいコスプレ衣装を通販で探してみると、結構値が張ることを知った…
いくら甲児くんの主夫力が高いとはいえ、さすがに一から手縫いするのは大変そうだし、なるべく出費も抑えないといけないとなると、ちょっと無理かな…と思っているところに、朗報が
偶然にも、同僚の息子さんが学校の文化祭で執事喫茶なるものをやったと聞き(余談だけど、男子校に通っているらしい)、体格も甲児くんとそう変わらないらしいので、お願いしてその時の衣装を貸してもらったのだ
若干お腹周りがキツイものの、裾や丈の長さは問題ない
こうして、一日限りのカイザーお姫さまにだけお仕えする執事さんが誕生したのである
カイザーさんは大喜びで、かっこいい!よく似合ってる!を連呼しながら、気が済むまで写真撮影に勤しんだ
恥ずかしいけど、お姫さまに頼まれちゃ断れないよね
さて、一口食べるごとに「おいしい~!」と感動しながらの朝食を済ませた後は、まずカイザーさんの全身をピカピカに磨く
毎日お風呂に入って綺麗にしているカイザーさんだけど、メンテ用のオイルで磨いてもらうと、艶が出てくる
「姫さま~お美しゅうございますよ~」と胡散くさい敬語で褒められて、カイザーさんはすっかりご満悦
ふざけてちょっぴり際どいところをくすぐったりしながらも、笑いの絶えない時間を過ごした
それからは朝食の片付け、洗濯、部屋の掃除…と、一通りの家事を甲児くんがやる
見ているだけのカイザーさんは申し訳なさそうに手伝いを申し出るけど、「何を仰いますやら、姫さまはそこで見ていてください」とやんわり一蹴されて、あうあう…と引き下がる
…というやり取りを、かれこれ十回ほど繰り返した後、甲児くんに「今日のあなたさまは姫さまなんですから、俺に好きなだけワガママ言ったり命令したりしていいんですよ。何かないんですか?」と聞かれて、ふぇ~…となってしまった
ワガママや命令は、普段のカイザーさんからはかけ離れたもの
でも、せっかくだからいつもとは違う雰囲気を楽しみたい…カイザーさんは「今日が終わるまでには、考えておきます…」と、つられて敬語になりながらも返事した
お昼時までは、習い事の時間という名目で、動画サイトでクラシックの鑑賞会
そっち方面に明るくない甲児くんが、それでも一生懸命に調べて作ってくれたプレイリストに、カイザーさんは幸せそうに耳を傾ける
甲児くんが淹れてくれた紅茶をふぅふぅ冷ましながら飲んでいると、そっとおなかに触れてきた甲児くんが「この子にも聞こえているといいですね」と微笑むので、そっか、お姫さまも大切な命を授かってるんだ…と、二人の子どももごっこ遊びに加えてくれた優しさに嬉しくなるカイザーさん
でも、ふと気になって「あの、この子の父親って…」と言いかけたカイザーさんの前に人差し指が立てられ「おやおや姫さま、昨夜もあんなに愛し合ったではありませんか。もうお忘れですか?」と囁かれて、それって…それって…身分違いの恋ってやつ…!?と、カイザーさんの中で何かが燃え上がった
それからはついつい少女漫画的妄想が止まらないカイザーさんの隣で、甲児くんも自分で言っておきながら、ある意味では下剋上とも言える関係性に妙な興奮を覚えていた
昼食は軽めのサンドイッチ
何でも、この後に控えているものがあるから…ということだけど…??
腹ごなしも兼ねて出かけましょう、と誘われて、家の外へ
さすがにあの格好で出歩く勇気はなく、普段着に着替えた甲児くんを、ちょっぴり残念そうに眺めるカイザーさん
でもカイザーさんとしては、甲児くんは私服でも十分にかっこいいので、すぐにお顔がにやけちゃうのだった
散歩の最中も、何かにつけて「今日の俺は姫さまを守る執事ですからね」を強調しては、カイザーさんを気にかけてくれる甲児くんだけど、カイザーさんからしてみれば、甲児くんはいつでもカイザーさんのことを守ってくれる騎士さまみたいなものだった
今も車道側を歩いてくれてるし、そんなに狭い道じゃないのに、すれ違う自転車や車があれば庇うように抱き寄せてくれるけど、これっていつも二人で歩く時には徹底してくれてることなんだよね
ぶっちゃけ10トントラックにぶつかられても傷一つ負わないどころか、トラックの方が吹っ飛びそうなカイザーさんは、別に守ってもらう必要は皆無である
でも、そんなことは関係なく、自分のことを守るべき対象として扱ってくれる甲児くんのことが、カイザーさんは大好きなのである
他愛もない雑談に花を咲かせながら、ゆったり歩いていると、いつの間にかおやつの時間になっていた
不意に立ち止まって、ここ、と示す甲児くんの指先には、ちょっとしたホテルがあった
結婚式場も兼ねているというホテルのロビーには、アフタヌーンティーの看板が掲げられている
期待に胸を膨らませるカイザーさんに、予約しといたんだ、と笑いかける甲児くん
運ばれてきたケーキスタンドには宝石のような軽食やお菓子が並べられ、湯気の立つカップからは紅茶のいい香りが…
スタッフのお姉さんが紅茶の説明をあれこれしてくれるけど、甲児くんにはちんぷんかんぷん
わかったような顔をして頷きながらも、理解できたのは「なんかすごいらしい紅茶」というだけ
でもカイザーさんが熱心に話を聞いて、瞳をキラキラ輝かせているので、それだけで値打ちがあると思えた
その後は宿泊客以外にも開放されているというホテルの中庭にある、ちょっとした薔薇園を見て回ったり、ショーウインドウに飾られているウエディングドレスを見ながらあれやこれや話したり…そうこうしているうちに、またしても時間が過ぎていく
次に甲児くんが連れて行ってくれたのは、同じホテルの上層階にあるレストラン
それなりに小洒落た夜景の見えるレストランで、ディナーというわけだ
美味しい食事、美味しいワイン、二人の間に漂う幸福な雰囲気…せっかくの夜景も霞むほど、お互いを見つめ合いながら、今日という特別な夜を楽しむ
そのうち、カイザーさんがチラチラと何かを気にしている素振りをし始めた
その視線を追うと、ちょっと離れたテーブルにて、男性が女性に何やら小さな箱を見せている
そわそわもじもじと体を揺するカイザーさんに、小声で「プロポーズしてるのかな?」と尋ねられ、そこでようやく甲児くんも得心がいった
カイザーさんがぽつりと「いいなぁ…」と呟く
そっか、あんな風にプロポーズするのって、テレビの中だけじゃないんだな…と思った甲児くんは、自分の時はどうだったか…と思い出すまでもないことを考えて、グラスに残っていたワインを一口で飲み干した
カイザーさんとしては大満足の一日だったけど、まだ飲み足りないという甲児くんに付き合って、家への帰り道にあったチェーンの居酒屋に入った
甲児くんとこういうところに来る機会ってあんまりないな、と物珍しそうに辺りをキョロキョロ見回してしまうカイザーさんが、甲児くんが酔い潰れちゃったらわたしが背負って帰らないと、と使命感に燃えるも、そんなことにはならずに、ふらつきながらも自分の足で歩く甲児くんと川沿いの遊歩道まで来た
でも、さすがに厳しくなってきた甲児くんをベンチに座らせて休ませていると、大きなため息が聞こえてきた
「…どうかした?」と声をかけると、情けない調子で「俺ってほんと、ダメなやつだよなぁ~…」と返ってきた
それから酔っ払いがぽつぽつ話した内容を整理して要約すると、もっとちゃんとしたシチュエーションで、ドラマチックなプロポーズがしたかった、らしい
言われて、カイザーさんは甲児くんにプロポーズされた日のことを思い出す
アパートのベランダ、プランターと鉢植えの隙間に腰掛けて、一緒に星空を見ていた
「結婚しよう」と言われて、前にも言われたような気がする…と思ったことも、静かに頷いたことまで鮮明に記憶している
その時の喜びが甦ってきて、フフっと笑ってしまったカイザーさんに、何を勘違いしたのか、甲児くんは頭を抱えて呻き出す
そんな甲児くんにそっと寄り掛かりながら「わたしは、世界で一番のプロポーズだったと思ってるよ」と伝える
何も考えてなかった、と項垂れる甲児くんに、考えてなかったんじゃなくて、ずっと無意識下にあった言葉だったんじゃないかな、心のどこかでずっと言いたいと思っていた言葉が、今しかないってタイミングで出てきたんだと思う、と自分の考えを伝えたカイザーさん
最後に「こんなわたしと結婚してくれて、ありがとう」と感謝の言葉で締め括ると、感極まった甲児くんにむぎゅっと抱きつかれて、「そりゃこっちのセリフだよ!」とそこそこの大声が響き渡った
まだそんない遅い時間じゃなかったので、人通りもそれなりにあり、恥ずかしいカップルへ生あたたかい視線が注がれたけど、努めて気にしないようにしたカイザーさんと、気付いていない甲児くんだった
しっかりと抱き締め合ったまま、「…あのね、ワガママ、思いついちゃった」とはにかむカイザーさん
キスできそうな至近距離で見つめながら「何だ?」と聞くと、「ほんとのほんとにワガママだから、気にしないでほしいんだけど…」と前置きされた後、「わたしのこと、何もかも全部、甲児くんのものにして。この先ずっと、離さないでいて」と、小声で照れくさそうに言われた
そんなのワガママでも何でもない、だって俺も同じ気持ちなんだから、と胸の内を明かした甲児くんは「わかった。絶対に、何があっても離さない。死んでも離すもんか」と、何よりも大切な愛しいひとを強く強く抱いた
来年も同じ熱量で…というか、さらに熱く推していけそうな自分に軽く戦慄している…
長いオタク歴の中でも、こんなに夢中に慣れたものってそうそうないよなぁ…
おかげで生きてるのが楽しいです!





















